しかし、絶対的な要素が存在しないわけではない。競走馬は、スピードやスタミナといった能力を絶対的な数値として有している。もちろん、その数値を目に見える数字として確認することは出来ないが、間違いなく持っている。
だから、競馬が競技である以上、競走馬は己の有している絶対能力の範囲内でレースをしなければならない。そういう意味においては、競馬というのは絶対的な要素をも内包している。
ブエナビスタは上がり3Fを32.9秒で走り抜いている。この馬は、持続力よりも瞬発力が武器の馬だから、上がり3Fのタイムとしては、これがほぼ限界だろう。それでも、前の2頭を捕らえられなかったということは、自身の有している絶対能力の範囲から逸脱したレースをしてしまったということだ。
安藤勝巳のレース後のコメント
4コーナーを回って「楽に勝った」と思ったという。
「前を見たら、途方もなく離れていた。見えなかったんだ。すごい脚で追い込んでいるんだけどねえ」
3コーナー辺りから徐々にポジションを上げ、4コーナーでは当面の敵であるリトルアマポーラとカワカミプリンセスを射程圏に入れた。同世代のライバルであるブロードストリートは、秋華賞と同じく自分よりも後方にいる。ブロードストリートに後ろから差されることはあり得ないと考えれば、あとは前の有力2頭を交わすだけだ。直線に向いてヨーイドンの瞬発力比べになれば、この2頭には負けるはずも無く「楽に勝った」と思ったのも当然だろう。
安藤勝巳というジョッキーは、競馬における相対的な側面を重視するジョッキーだ。騎乗馬の能力を限界まで引き出すことよりも、相手に先着することを優先させる傾向が強い。だから、時として秋華賞のようなことも起こり得る。今回のレースにおいては、彼のそのような特徴がブエナビスタの特徴とも相まって悪い方向に出てしまった。
ここまでは、このレースにおける相対的な競馬の話。
3番手以降の集団が相対的な競馬に終始しているころ、クィーンスプマンテとテイエムプリキュアは絶対的な競馬を追求していた。
12.5-11.3-12.2-12.3-12.2-12.2-12.3-11.8-11.7-12.2-12.9=2.13.6
見事なまでに平坦なラップ構成である。
競馬に限らずあらゆるスポーツにおいて、平坦なラップで走ることは速い走破タイムを記録するための重要な条件である。要するに、この2頭は自らの能力の限界を引き出すタイムトライアルに挑戦していたわけだ。
以上が、このレースにおける絶対的な競馬の話。
相対的な競馬と絶対的な競馬。
二つの全く質の異なる競馬が一つのレースの中に存在し得たことが、今回の大波乱を生み出したのだ。
◎カワカミプリンセス
向こう正面で積極的にポジションを上げて行ったが、リトルアマポーラに並んだところで終わり。横山典弘は一体何がしたかったのだろうか?あそこで止めてしまったらレースが動かないから意味がない。
○ブエナビスタ
瞬発力タイプの馬にとっては非常に難しいレースになってしまった。早めに動いて行けば末を無くしてしまう可能性を常に抱えている。既に述べたように 32.9秒で上がっているのだから、このレースに関してはこれが精一杯の結果だし、逆にこれがこの馬の限界ということでもある。
▲リトルアマポーラ
3番手を走っていたこの馬の鞍上がスミヨンであったことが、この流れを呼んでしまったというのは恐らく当たっているだろう。ヨーロッパの大レースで先頭を走っているのは基本的にペースメーカーだから、大逃げというのは余りないのだろう。というか、大逃げしてしまったらペースメーカーにならない。
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